SH Diary.

かつて不登校だったひとが野球や遠出、日常とたまにちょっとまじめなことを書いてます。

憧れだったあの赤ペンを買った

この春から教員として働き始めている。

となれば、授業はもちろんのこと、同じくらい大事な業務といえば「丸付け」である。日々の課題から小テストまで、赤いペンを駆使して机に向かう時間は少なくない。その赤ペンをどうしようか、実は少し悩んでいた。

支給品はないことはないのだが、別に自分にあったペンで良いとのことなので、妙に文房具へのこだわりがある僕としてはやはり自分にあったペンを探して使いたい。いろんな人にオススメの赤ペンを尋ねつつ、ある日の退勤後大型書店の文具売り場に足を運んだのだが、どうもいまいちピンとこない。

このペンはK先生が使ってたなあ・・・と手にとって考えるうち、あることを思い出した。

そういえば、「憧れ」だった赤ペンが一本あったんだった。

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小学校のとき、毎年担任が変わっても変わらないものがあった。それが丸付けのときに使っていた赤ペンだった*1。水性で、雨に濡れたらすぐにじむ、赤というよりかはややピンク色がかったあのペン。先生のペンケースには、いつも小指大サイズの替えインクが何本も詰まっていた。

わら半紙の漢字テストを先生に提出すると、小気味よく ざざっ ざざっ ざざっ と丸をつけ、最後にテンポを崩さず「100」と記してその下に二重線。調子が良いと花丸もついてくるが、ひとつ間違えると「ハゲ丸」になってしまう。週末になると必ず出た日記の宿題に対するコメントも、あの赤ペンで返ってくる。

そんな先生の姿とあの赤ペンに憧れを抱いた小学生は、日本中にごまんといると思う。ご多分に漏れず僕もそのひとりだった。

憧れを抱いたきっかけはもうひとつある。あの赤ペンは通っていた英語教室でも使われていたのだ。しかも学生アルバイトの先生まであの赤ペンを使っていた。あの赤ペンを持っているのは小学校の先生だけだと思っていただけに、衝撃も衝撃だった。

そのうえ、小学校でも、英語教室でも、一貫して、一切あの赤ペンを使わせてもらえなかった。

たとえば、小学校の算数の時間で簡単な問題が出て、それが合っていたときにうっかり赤ペンがなかったとしても、先生はあの小気味の良い憧れの赤ペンを一切貸してくれない。掲示物に赤い文字が必要になったときも、プロッキーやマッキーなど違う赤いマジックペンが出てきて、あの赤ペンに触れさせてもくれなかった。

目を盗んであの赤ペンに手をかけると、小学校でも英語教室でも血相変えて先生があの赤ペンを奪い返した。そして叱られた。それくらい、先生にとっては当たり前のものなのだろうけど、小学生の僕にとってあの赤ペンは神聖なものだった。喉から手が出るほどあの赤ペンが欲しかった。

ひとり、どこから手に入れたか、あの赤ペンを使っているクラスメイトがいて、羨ましいどころか恨めしいとすら思ったこともある。

・・・そのことを、文具売り場で思い出したのだ。

僕はすぐに売り場をあとにした。20年近い前の記憶がありありと蘇った瞬間、いま使わなければもう一生あの憧れのペンを使うことなんてないなと思った。「自分にあったペン」は、もうあの赤ペンしか考えられなかった。ざっと見る限り、その売り場では、あの赤ペンを取り扱っていなかった。

しかしここで大問題が発生する。

あの赤ペンの名前がわからないのだ。

「スラリ」とか、「ジェットストリーム」とか、ペンにはだいたい銘柄がある。しかし20年近く憧れていたあの赤ペンの正式名称を、僕は記憶を取り戻してもなお一切知らなかった。水性の赤ペンなんていろいろある。先生がよく使ってる、ピンクがかった赤、と言っても検索で引っ掛ける自信もない。

残った特徴的な手がかりは、あの小指サイズの替えインクぐらい。

「赤ペン カートリッジ」とか「赤ペン インク 取り替え」とか思い当たる限りの言葉を羅列してググってみる。するとやってみるものだ、あっさりとあの赤ペンの正体がわかった。

これだよ、これ!!

さらに調べると、ヨドバシカメラの文具売り場に取扱があるらしいことも知った。行ってみるとたしかにあの赤ペンがラックにぶら下がっていた。大型電気店なのに「最大級の品揃えの文房具売場!」と記された頭上の大きな看板は伊達じゃなかった。ほかのペンよりやや値が張っていたが、そんなものはどうでもよい。

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どうせすぐなくなるんだから、と替えインクも買った。というか、替えインクすら取り扱っているのかヨドバシカメラ。ここのところ腕時計など仕事に使うものをよくヨドバシで買っていたので、この赤ペンとインクは全額ポイントで精算することができた。

はじめてのインク充填。最初真っ白だったペン先が、じわりじわりと見覚えのあるあの憧れの赤色へ染まっていく。自分の部屋で静かに興奮する。誰もいなくてよかった。

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徐々に染まった赤いペン先を見ているうちに何か書きたくなった。丸付けでも日記へのコメントでもなく、自分の手帳にどうでもいいことをあの赤ペンで書き記す贅沢さ。憧れすぎてボールペンから水性ペンまであらゆる赤ペンを買った小学校のときの僕が聞いたら、きっと発狂するに違いない。

なによりも思わず二行目にしたためるくらい、その書き味の良さに驚いた。そりゃあんな小気味良く先生は丸付けしてプリントを返してくれるわけだ。

でも、こんな赤み強かったっけ?と思ったら、どうも替えインクにもいろいろ種類があったらしく、僕が買った型番「200」よりも型番「400」のほうが、よりピンクに近い、つまりあのころ先生がこぞって使っていたあの色合いが出ることを、後輩の小学校の先生が教えてくれた。次はそっちを買おう。

数日後、出勤して小テストを早速あの赤ペンで採点する。

ざざっ。ざざっ。ざざっ。お、この子は満点だ。100と書いて下に二重線をささっ。

あ、僕、先生になったんだ、と心の中でニヤニヤしながら、山と積まれた回答と対峙する。たしかに大変な作業なのだけど、20年近く憧れ続けたあの赤ペンを握っているせいか、その作業は心なしか楽しい。もっと廉価の赤ペンはあるけど、憧れのあのペンを買って本当に良かったな、とひとり職員室で思った。

*1:知り合いの小学校の先生曰く、どうも学校側でまとめて購入して支給するものらしい。そりゃみんな同じペンを使うわけだ