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SH Diary.

NPOと教職課程、二足のわらじを履く25歳の野球と遠出とちょっとだけまじめな日常。

さらば、永遠のマイ・ヒーロー【2016観戦記特別篇 サブロー引退試合:後編】

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前編からのつづき)

9回裏は3番角中からの打順。確かにこの日の角中は、なんとかして次のサブローさんに繋ぎたいという思いが空回りしてか「らしくない」2併殺だった。角中が併殺打を打つたびに球場全体から大きなため息が漏れていたのも、事実だった。

そんな角中に代打が送られる。井口さんだった。

既に5番の井上は福浦と交代していたので、9回裏の打順は井口・サブロー・福浦というベテラン3人の並びとなった。で、井口さんはファーストフライに倒れ、いよいよ、いよいよ、22年間のプロ生活最後の打席が回ってくる。しかも、今度の打順は、慣れ親しんだライトのポジションで名前が呼ばれる。

4番、ライト、サブローーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

今日一番の語尾の長さで、谷保さんがサブローを最後の打席へ送り出した。

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ピッチャーは、オリックスの守護神・平野佳寿

このゆったりとした構えも、これがついに最後。第1打席と同じ旧新応援歌が交互に演奏される。最後なのだ。本当に最後なのだ。無我夢中で、僕はサブローに声援を送り続けた。嗚咽は漏らさなかったが、じんわりと涙がにじんでいた。

3球目だったらしい。応援に無我夢中過ぎて何球目だなんてまったく意識していなかったが、見事な流し打ちが僕らの待つライトへ飛んでいった。それは、元々流し打ちを得意とするサブローらしい、右中間へのツーベースヒットだった。

ほぼ目前で白球がはずんだあとのことを、僕はほとんど覚えていない。

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二塁ベース上で涙にくれるサブローを撮ったつもりが、あとで見返すと前の人の万歳の手がビックリするくらい写り込んでいる。いつもならこんな写真はさっさと削除して撮り直すのだが、どういう訳かこの1枚しか手元に残っていない。それぐらい僕はあの1本のヒットの余韻に浸りたかったのだと思う。

ここまでずっと全球ストレート勝負に屈する3打席連続の空振り三振から、最後の最後に生まれたヒット。

サブローはここ一番、それが大舞台であればあるほど結果を残す打者だった。そして、引っ張るのではなくちょこんと合わせたセンター前や右中間への当たりでランナーを還すことが多かった。そんな現役最後、プロ通算1363本目のヒットは、まさしくサブロー22年間の真骨頂と言える一打。

まちがいなく、あの瞬間、QVCマリンフィールドには「野球の神様」が存在していた。

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ここで、サブローは代走・岡田と交代。ついに22年間の戦いにピリオドが打たれた。背番号3が躍動する姿を、もっともっと、もっともっと見ていたかった。待っていたんだその戦う姿を、輝けサブロー。あの瞬間のサブローは、応援歌通りに輝いていた。

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そのサブローをネクストバッターズサークルで見送ったのが、ひとつ上でサブローと一番長く野球をしていた福浦和也

実はこの日、レフトのビジョンの選手紹介にはそれぞれのサブローへのメッセージが表示されていたのだが、福浦のそれは誰よりも深く、重く、寡黙な男の「言葉にならないけどありがとう。これからも宜しく」の文面にサブローへの思いがすべて集約されている気がして、胸が熱くなった。

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ところが福浦は凡退、鈴木大地の代打・デスパイネもよもやのキャッチャーゴロ。サブローが生み出した最後のチャンスを生かせず、結局0-2の完封負け。

しかし、最後の最後でサブローらしいヒットが出たことに、スタンドからは負け試合とは思えないほどの大きな、大きな拍手がいつまでも鳴り止まなかった。普段ならば怒られる行動なのだろうけど、この日ばかりは誰ひとり文句を言う者はいなかった。

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そして、引退セレモニーへ。

まず最初にサブローの歩みをまとめたVTRが流れるのだが、「4番、ライト、サブロー!」のコールからはじまり、「栄光の架橋」をイントロからほとんど余ることなくフルコーラス使う見事な編集に早くも痺れた。何この神編集。正直、何度もすげぇすげぇと連呼して、周りはうるさかったと思う。ごめんなさい。

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サブローの引退挨拶。あの最後の1本ですべて出し切ったと思っているのだろうか、涙で詰まることもなく、終始晴れやかな表情でスピーチする様子がビジョンに映し出される。

こんな私ですが、22年間もの間、愛してくださって、本当にありがとうございました!

ロッテファンになったとき、初めて購入した選手グッズが背番号3のリストバンドだった。それから10年。半年だけ巨人のユニフォームを着た時期こそあれど、最後はロッテ伝統のピンストライプのユニフォームで現役を退く、サブロー。

ただ、その事実だけで、僕はほんとうにほんとうに、心の底から嬉しかった。

前編の冒頭にも書いたが、こんなにも華やかな晴れ舞台で現役の幕を下ろすプロ野球選手なんて、ほんの一握りしかいない。その一握りに、僕が初めてグッズを買った選手が含まれる。しかも一度移籍したのにまた古巣に戻ってきての、今日のこの日。

こんな幸せなことはない、と思った。

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涙をこらえながら選手会長・岡田が花束を贈呈する。続いて福浦が花束と共に熱い抱擁。チームスタッフの石田さん、そして12時まで徳島で講演してたらしい里崎氏も駆けつけ、もう何度目かの大歓声がQVCマリンフィールドを包み込む。よく観りゃ、レフトスタンドのオリックスファンも一緒になって声援を送る。

みんな、泣いていた。ベンチ前で握手した鈴木大地も泣いていた。そしてスーツ姿で駆け付けた大松、伊志嶺、荻野貴司、大嶺兄。さらには昨年退団し今年海の向こうで才能を開花させた中後までベンチ前にいた。大松はハンカチで目をぬぐうのを隠そうともしなかった。

これにもまた、場内は大きくどよめく。

そういえば、半年在籍した巨人からは阿部や坂本、クルーズ*1などと言った面々が観戦に来ていた*2し、セレモニーで流れたビデオレターも球界の幅広い人脈から寄せられていて、サブローの人望の厚さを示していた。まさか、懐かしのハワイアンパンチ、ベニー・アグバヤニからもメッセージがあるなんて・・・。

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いよいよ、サブローが場内を一周し始める。今日3度目となるサブロー応援歌メドレー。しかし今度のメドレーは一味違った。

実はサブローには、1曲「幻の応援歌」がある。

♪ボール引き付けて飛ばせ大空へ、打てサブロー燃え上がれ見せろよ一撃を
♪サブローレッツゴー サブローレッツゴー みんなの思い乗せて見せろよ一撃を

これは2011年に作られたのだが、その年数か月でサブローは巨人へ移籍してしまった。なので正直歌った覚えがほぼ無い。で、その年のオフにロッテへ復帰したとき、応援団は2011年のものではなく、新たに3曲目を制作した。それが、♪サブロー、さあ立ち上がれ今こそ愛するチームのため・・・という曲である。

試合中は1作目と3作目の交互演奏だったのだが、場内一周の際になって初めて、この♪ボール引き付けて飛ばせ大空へ・・・ではじまる2作目が間に追加された。これも、ものすごく久々に耳にする旋律だった。

1作目、2作目、3作目と順番でメドレー演奏されたのは、たぶん後にも先にもこの一瞬だけだろうと思う。

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サブローが慣れ親しんだ外野に差し掛かると、一斉に投げ込まれる紙テープ。不発のテープが何個も何個も身体を直撃して痛かったけど、そんなもんどうだっていい。サブロー!サブロー!ありがとうサブロー!僕は力の限り叫んだ。泣きそうになったけど、不思議と泣かなかった。

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でもものすごく手は震えていて、サブローを見送るときの写真はブレたり、ピントが手前のフェンスに合っていたり、散々なものだった。

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ファンからの花束を時折受け取りながら、ゆっくり、ゆっくり場内を一周するサブロー。ああ、終わっちゃうんだ、僕のヒーローの勇姿はもうすぐこのグラウンドを去る。

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気付けば、ナインが揃いの背番号3のTシャツに身を包んでホームで待ち構えていた。それに気づいた僕は、またもや「みんな背番号3だよ・・・」と感極まって絶叫した。サブローの身体は10度、秋晴れの千葉の青空に輝きを放って宙を舞った。そして集合写真も撮り終えたヒーローが、グラウンドを後にする。

4番、ライト、サブローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

谷保さんの最後のコールは、サブローが22年間のプロ野球生活に完全に幕を下ろしたことを意味していた。こんなにも「4番・ライト」が似合うプロ野球選手は、サブローしかいない。

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その後、グラウンド開放が終わるまでずーっとビジョンに表示された、「22年間応援ありがとう 大村三郎*3」の手書きメッセージ。

やめてくれ。お礼を言うのはこっちの方だ、サブロー。

2011年、巨人の背番号0を身に纏った大村三郎を目にしたとき、もう僕は「サブロー」と言う存在を諦めかけた。これからは巨人の大村三郎として、勝負どころで一本かっ飛ばしていくもんだと思っていた。それが、まさか半年で、ロッテの背番号3の「サブロー」としてカムバックするなんて、夢にも思っていなかった。

FAでロッテに戻ってきてありがとう。ロッテで現役を全うしてくれてありがとう。勝負どころでいつも打ってくれてありがとう。そして、最終打席の鮮やかな右中間へのツーベース、ありがとう。そういえば、この日捕手の田村は打席入場曲にSMAPの「ありがとう」を使っていた。きっと彼も同じことを思ったのだろう。

僕も彼に何度、ありがとうを言えばいいのだろう。間違いなく僕の中で、サブローはヒーローだった。ウルトラマンやゴレンジャーにも負けない、いやそれ以上のヒーローだった。その事実は、これまでも、これからも、変わることは絶対ない。

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・・・余韻が冷めやらぬ、深夜0時。

シルバーウィークの最終日と重なって、池袋から京都へ向かう夜行バスは満席だった。カーテンが完全に閉められ、真っ暗で静かな車内で僕のiPodが選曲したのは、日中にもう何度聞いたか分からない、ゆずの「栄光の架橋」だった。

♪誰にも見せない泪があった 人知れず流した泪があった・・・

その瞬間、何かこう、目が霞むような感覚があった。さほど熟睡できずに今朝7時に東京駅に降り立って以来一睡もしてなかったのであくびかとも思ったのだが、なんか様子がおかしい。すると、一筋の涙が、すーっと僕の頬を伝った。

あ、まずい。

隣の客はもうすでに熟睡している。それが不幸中の幸いだった。僕は試合からずっとつけっぱなしだった、初めて買った背番号3のリストバンドでそっと涙をぬぐった。きっと、今僕が涙を流したことは、他の誰にもバレていない。気付けば、さっきまで渋滞していたバスは快調に東名高速を西へひた走っていた。

♪いくつもの日々を越えてたどり着いた今がある だからもう迷わずに進めばいい 栄光の架橋へと・・・

今でも不意にこの曲が流れると、涙がにじんでしまう自分が、そこにいる。

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サブローは言った。

このチームを日本一にすることが夢だ、と。

その思いを、一塁側ベンチで整列しながら聞いた選手たちがどう思ったかは分からない。しかし、サブローさんの夢を叶えるのはオレたちだ、と思った選手は必ずいたはずだ。それは、球場を埋め尽くしたファン、魂の挨拶を画面越しに聞いたファンだって同じだろう。

その夢に向かって勇猛まい進すると宣言したサブロー。もちろん、このチームを日本一のチームにするために、手を貸すのはいとわない。彼の夢は、ファンも一緒に叶えられるものだと思う。こんな選手の背中を押すことができたことに、僕は言葉にできない誇りを感じる。

サブロー選手、22年間、本当に本当にお疲れ様でした。

そして、球場でお会いした皆様、こんな長い文章(どう考えても前編と後編の分け目を間違えた気しかしない)に最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。

永遠のマイ・ヒーローの「終わらないその旅」を、これからも応援し続けます。

*1:昨年までロッテ

*2:この日巨人は試合が無かった

*3:サブローの本名