SH Diary.

旅行記、ときどき野球。

待ち望んでいた、「スシ」

あれは、昨年の3月末だったか。

働いていた職場の初年度の仕事が終わり、何かちょっといいものでも食べようと近所の回転寿司屋に出向いた。折しもその日は2019年のプロ野球開幕前日だった。

我らが千葉ロッテマリーンズのその年の補強の目玉といえば、1にも2にも日本ハムからやってきた「スシボーイ」ブランドン・レアードであった。前年に日本ハムを退団したと聞き「獲ってもいいんじゃないのかなあ」と思っていたのだが、まさかくるとは思ってもいない選手だった。

レアードと言えば、日本ハム時代からおなじみの「スシポーズ」である。札幌の行きつけの寿司屋の大将にお願いされて、ホームラン後に寿司を握るパフォーマンスを披露するとたちまち「スシボーイ」として道産子の圧倒的人気をつかんだ。

たいして野球の話をしたことのない、北海道出身の同僚の人ですらレアードを「寿司の人」と認知するほどのレベルである。レアードに寿司を握るポーズをすれば即ち「一発打て」。それくらい、レアードと言えば「スシ」がついてまわるようになった。

散々対戦して、散々特上寿司を握られてきたからよくわかる。だからレアード獲得の報を聞いたとき、僕が思ったのはただひとつ。レアードに打率を求めちゃいけない。とにかくホームランだ、そしてベンチ前でとことん「スシ」を握れ。ただただそれだけだった。

・・・そして、2019年のプロ野球開幕前日に戻る。

その日、僕が回転寿司屋にいたのは、「今年度の仕事を納めたからちょっといいものでも」と言う理由のほかにもうひとつあった。

ここまで長々と書けば誰でもおわかりだろうが、レアードがたくさんホームランを打ちますようにと言うある種の「願掛け」でもあった。気づけば、僕の目の前には17枚もの皿がタワーとなって積み重なっていた。人生で一番回転寿司の皿を積んだ気がする。

いろいろ終わった、そしてはじまる高揚感でついつい150円の皿も多く積み重ねた結果、その日のお会計はまあまあな値段となってしまった。でもこれでレアードが40発打てばまあ安いもんだよな、とも思いながら店をあとにした。

はたして翌日、レアードは鈴木大地との三塁手争いを勝ち取り開幕スタメンに名乗りを上げる。そして大事な開幕戦、レアードは期待通り見事な逆転ホームランをかっ飛ばし、さっそく「スシ」を握った。幕張バージョンはなんと釣って捌いて、という手順まで追加される豪華なものとなった。

これだけにとどまらなかった。レアードは翌日も、さらにその翌日も「スシ」を握った。結局、開幕4試合連続ホームラン。さすがにこれは想定外だった。気がついたらレアードの握った「スシ」は内野のバックアッパーである三木亮が食べる流れになっていた。鈴木大地もスシを握るようになった*1

思った以上の活躍をするこのスシボーイのことを好きにならないはずがない。令和の初日、京セラドーム大阪での試合の前に僕は意気揚々とグッズショップへ出向き、そこでレアードの54番のTシャツを買った。わざわざ前々日に別件で京セラドームにいた友人に在庫の確認を頼むほどだった。

そして、コンスタントにレアードがベンチ前で「スシ」を握るようになったころ、僕の食生活も大きな変化を見せていた。たしか前橋球場での西武戦だったか、仕事終わりの電車で中継をチェックしていたら、レアードがホームランを打った。いつものようにベンチ前でレアードが「スシ」を握る。

次の瞬間、僕は無意識に回転寿司屋の空き状況を検索していた。そして数駅先にあるかっぱ寿司が空いているという情報をキャッチするやいなや、途中下車してそのかっぱ寿司へ駆け込んで、次々と皿を積み重ねて帰った。ちなみにその後、レアードは更に満塁ホームランという超特上の「スシ」も握った。

以来、ことあるごとに、ひとりで外食ともなれば回転寿司へ行くようになってしまった。レアードのおかげでエンゲル係数が爆上がりしてしまったわけだが、しかし不思議なことに僕が回転寿司へ行くとレアードはよく打った。レアードが打たなくなると僕が回転寿司へ行く流れもできつつあった。

この年のレアードは完全に夏場に息切れしてしまい、8月8日に2発打って以降はたった1度しか「スシ」を握れなかった。チームも開店休業状態のスシボーイの調子に合わせるかのごとく勝ちきれず、最終戦でCSを逃す。そう言えば僕もこのころに回転寿司へ行った記憶がたいしてない。

そして、2020年。

キャンプインのころの僕は職場が変わることになり、転職活動に大忙しでゴールデンルーキー・佐々木朗希の情報すら追えていなかった。無事転職活動が終わると今度は新型コロナウイルス禍が巻きおこり、結果的に開幕は3ヶ月も延びた。回転寿司へ向かう足も遠のいた。

ロッテの開幕戦は当初の予定と同じ、福岡で迎えることになった。しかし、新戦力の小野郁があと1ストライク取れば引き分けの場面でサヨナラタイムリーを打たれて万事休す。ちょっとヤな予感が漂った2戦目、それを吹き飛ばしてくれたのはやっぱりスシボーイだった。

しかも「2020年パリーグ第1号」のオマケまでついた。本当に待ち遠しかった2020年初の幕張寿司開店。作業の合間に消毒をするという感染対策もバッチリな特上寿司は、常連客の三木の代わりに前夜プロ初出場で甲斐キャノンからプロ初盗塁を奪った期待の韋駄天・和田康士朗の腹に収まった。

羨ましいぞコーシロー。

リプレイを何度も見返すうち、たまらず僕は家を飛び出し、回転寿司屋へ駆け込んだ。そう言えば本当に久々の寿司だ。キャンペーンでえらく量が盛られたネギトロの軍艦をつまんでいるころ、福岡ではやっぱりスシボーイが貴重な追加点となるタイムリーをぶっ放していた。

どうやら、僕が回転寿司で皿を積むとレアードが打つというジンクスは今年も健在なようだ。

であれば、毎日回転寿司へ行けばレアードがホームラン王を獲るかもしれない。しかし僕にはそんな財力はない上、毎日決まって同じものを食べることに耐えられる舌も持ち合わせていない。YouTuberのSUSURUのような「毎日ラーメン健康生活」みたいなことは僕にはできない。

でも、僕らはいつだって「スシ」を望んでいる。昨年夏場に全然握ることのできなかったあの「スシ」を。シーズンはやや短くなったが、きちんと手を消毒して、激ウマな特上寿司をたくさん届けてくれスシボーイ。でも僕はウニが苦手なのでそれだけは抜いてね。

お題「#応援しているチーム

*1:しかし大地の寿司を食べた三木はそのまずさに全部吐き出すという茶番も繰り広げられた