SH Diary.

旅行記、ときどき野球。

父とハーゲンダッツ

今年の正月は父が亡くなり喪中ということもあって、おせちも注文せず少しのカマボコとオードブル、あと大量の餅で過ごすことになった。僕は頭がついたエビが大好物なのだけど、それも食べられないと思うと仕方がないが非常に寂しいものがある。

そして、毎年1月2日に顔をそろえてたうちの親戚一同も、今年はお寺さんのお参りの都合で1月1日に前倒しされ、26年間で初めて1月2日を家で寝て過ごした。で、さっきいつも移動で途中が見られないとんねるずのスポーツ王の特番を初めて家で最初から最後まで見たのだった。

そんな亡父は、正月に2つの「恒例行事」を取り仕切っていた。

ひとつは厳密にいえば年を越す前なのだが、母が味付けした溶き卵を器用にくるくるっと巻いて出し巻き卵に仕上げる作業。しかしこれは今年はおせちを自粛したこともあってそもそも作らなかった。そしてもうひとつの「恒例行事」は、思い切って僕が受け継いでみることにした。

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それは、ハーゲンダッツ大人買い

親戚宅の近所にあるスーパーでは、ひとつ200円を切る妙に安い値段でハーゲンダッツが売られている。そこに目をつけた父は、こうして親戚が一堂に会すると必ずハーゲンダッツ大人買いして皆にふるまっていた。うちは女性比率が高い一族なので、みんな色めき立つのは当然だった。

父の葬式のとき、司会の人が生前の父の人柄とかを読み上げてくれたのだが、そのスピーチ原稿にもこのハーゲンダッツをいつも買ってくる父、という話を入れてもらった。それくらい、うちの親戚の中では「(父の名前)ちゃん*1ハーゲンダッツ」というのは根付いた文化だった。

で、父が亡くなってはじめての正月、2017年の1月1日である。

お茶に氷でも入れよう、と親戚宅の冷凍庫をぱかっと開けると、そこにミニカップのハーゲンダッツの箱がすでに鎮座していた。これはまちがいなく父が買ったものではない。「そのハーゲンダッツ食べてもいいよ」と伯母が言うのだが、心の中で冷や汗をかきながら動揺を隠すように遠慮する。

さらに、墓参りが終わった後、「さーてちょっと買い物でも」と上着に手をかけると、やはり伯母が「どこ行くの?あとでフルーツ買いに行くつもりだけど」と言う。ついでに一緒についてきて買い物すりゃいいじゃないの、という魂胆だろう。さすがにこれには動揺した。

でも、ハーゲンダッツとともに、親戚の子どもにあげるお年玉のポチ袋も調達し忘れていてどのみち買い物に出る必要はあったので、「いやちょっとコンビニへ・・・」と適当に取り繕って、コンビニではなくスーパーに足を向ける。

さっきミニカップがあったのを確認しているので、バニラなど定番は避けてとりあえず「期間限定」と名のつくものと高そうなパッケージのものを全種類かごに入れる。さすがにいつもどういう基準で父がハーゲンダッツを選んでいたのかはわからなかったので、自分の気になるものだけ2つキープしてみる。

ついでにポチ袋も買って親戚宅へ戻る。たかだか5分くらいの道のりなのだが、他の親戚は誰ひとり僕がハーゲンダッツを抱えて帰ってくるとはまさか思っていないはずなので、妙に心臓がバクバクしながら戸を開く。

買い物袋を持ち忘れたので、レジの後にタダでもらえる取っ手のないビニール袋に乱雑に入れた10個のハーゲンダッツを、YoutubeSMAPメドレーを大画面で楽しんでいた親戚に示す。すると、少しの戸惑いの後、一気に親戚のボルテージが上がった。

その瞬間、ああこれか、と思った。

思い返せば、うちの父は何かこう、ウケを狙うことが好きだった。ホームパーティに招かれた会社の同僚の家のインターホンを鳴らし、「こんばんは、京都府警の者ですが」と一発ジャブをかますのはいつものことだった*2。正直、僕もこの血を受け継いでいるところがある。

そうやって何らかの手段で人をくすっと笑顔にさせることが、父は好きだったのだろう。親戚一同がハーゲンダッツを前に狂喜乱舞するその姿を見ることに父は喜びを感じていたんだな、と冷凍庫にハーゲンダッツをしまいつつ思った。

子どもたちには微々たる額ながらお年玉をあげた。僕は親戚中で最年少だった時期が長く、いつもひとりで多額のお金をもらうお年玉という文化がすごく苦手だったのだけど、大人になった今はこうやって返してあげたらいいのか、とお年玉の文化を見直すようになってきた。

そしてこのハーゲンダッツも、ある種僕から親戚みんなへの「お年玉」なのかもしれない。

来年の正月もまた、父の遺志をついでハーゲンダッツ大人買いしようと思う。

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というわけで、本年もどうぞよろしくお願い致します。

*1:うちの親戚は僕と母と伯父(父の兄)以外基本的に父をちゃん付けで呼ぶ

*2:父はもちろん警察関係者ではない