SH Diary.

かつて不登校だったひとが野球や遠出、日常とたまにちょっとまじめなことを書いてます。

安らかに、アチャ。―ベネズエラが生んだナイスガイの訃報に接して

「元ロッテ・カスティーヨ選手、事故死」

夕方、職場でちょっと調べ物をするのにYahoo!を立ち上げようとしたらそんな文字列が目に入り、思わずほかの同僚に心配されるほど「えっ!」とたじろいでしまった。

ホセ・カスティーヨ。愛称は「アチャ」。背番号25。

2011年、下剋上日本一を置き土産にアメリカへ旅立った西岡剛が抜け、さらには不可解なトレードでサブローも巨人へシーズン途中移籍した。そして4番バッターがいなくなり、夏場に急遽呼ばれたのが前年横浜ベイスターズ二塁手として活躍したこの男だった。

正直、パワーヒッターではない。ベイスターズでは4番を打ったことがなかったはずだ。にもかかわらず、ロッテにやってくると「4番・ファースト」がこの男の指定席になった。そして本拠地デビューの試合で挨拶代わりの一発を放ち、その日は4安打を放った。ついに救世主が現れたかと思った。

だが、この年のロッテはどん底だった。それはいわゆる「統一球」、まったく飛ばないボールを1年間使用していたせいだったのかもしれない。日本一からまさかの最下位、そのうえロッテ全体のホームラン数が、あろうことに西武の中村剛也ひとりが打ったホームラン数を下回るほどだった。

本拠地デビューでいきなり一発をぶっ放したアチャもご多分に漏れず、ホームラン数はわずか6本止まり。率直に言えば4番バッターとしては物足りなさすぎる成績ではある。しかし結局、夏からシーズンが終わるまでほぼ毎試合アチャは「4番・ファースト」だった。

結局、「ロッテのカスティーヨ」としていっしょに戦ったのは、このわずか数ヶ月の間だけになった。しかしながら、ロッテファンはどこかこの男を「期待はずれ」とは思っていないフシがあったように思う。いや、それは僕だけのことなのかもしれないが。

もちろん、「期待はずれ」とは思えない理由がある。

もう1度書いておくが、夏に合流していくら飛ばないボールだったとは言え6本塁打4番バッター、いや助っ人外国人としては「期待はずれ」と言わざるを得ないだろう。事実、アチャのプレーを、僕はそんなに覚えていない。なにせさっき書いた本拠地デビューの4安打の試合なんて言われるまで忘却の彼方だった。

ただ、記録には残らない、とある貢献は今もしっかりと心に刻まれている。

この映像を観てほしい。

9月1日、日本ハム戦に登板した伊藤義弘に、陽岱鋼の折れたバットが直撃する。あまりの衝撃で足をばたつかせる伊藤。慌てて駆け寄った井口や今江が身体に手をやり、次々とタオルが運び込まれる。このとき伊藤の足からはおびただしい出血があり、用意された担架も使えない状況だった。

そこで伊藤を搬送するとき、悶絶する伊藤の身体を後ろから抱えて運んでいったのはほかでもない、アチャだった。そして途中でその役目を交代することもせず、ベンチ裏まで伊藤を送り届けていった。カメラはダグアウトの奥へ消えていく背番号25を、きちんと捉えていた。

この映像を観るたびに、僕はアチャの優しさにものすごく心を打たれる。

そして、もうひとつこの映像。

伊藤の悲劇の約3週間後、今度は西武の秋山翔吾が打った強烈なピッチャーライナーが、薮田安彦の下腹部あたりをもろに直撃した。すぐに一塁のアチャへ転送してアウトにするも、これまたあまりの衝撃に薮田がもんどり打つ。

そのとき、いの一番に心配して駆け寄り、そっと薮田のグラブを外したのが、やっぱりアチャだった。

結局薮田は自分の足でなんとかベンチまで戻ったが、アチャはそっと外した薮田のグラブを最後まで小脇に抱えてベンチへ持ち帰った。

ホセ・カスティーヨという男は、こうした「仲間思い」の一面があった。誰かが負傷したときはまっさきに駆けつけ、率先して介抱する。正直、こんな外国人選手はいままで記憶にない。本当にナイスガイだった。それが、訃報が流れて一様にロッテファンが悲しんだ大きな要因だと思う。

アチャは、誰からも愛されていた男だった。

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2011年秋のほっともっとフィールド神戸にて。右は当時の中継ぎエース、カルロス・ロサ

なぜ神様は、こんなにも仲間思いでナイスガイな男の命を、あっさりと奪ってしまうのだろうか。それがものすごく悲しい。

アチャの応援歌には、「アチャ エス アレグリア デ ゴラソン」というスペイン語が含まれていた。どういう意味なのだろうと今になって調べてみたら「アチャは私の心の喜び」みたいな意味らしい。7年前のあの数ヶ月の間だけでも、こんな男といっしょに戦えたのは、間違いなく「心の喜び」だった。

君の勇姿を忘れない。サンキュー、アチャ。安らかに。