いつかの夏、岡山県の日生で牡蠣のお好み焼き「カキオコ」を食べたときの、店のメニューに添えてあった一文が忘れられなかった。
「ぜひ今年の冬はまた、プリプリの牡蠣を食べに日生へいらしてください」
牡蠣のシーズンから大きく外れた夏場は風味が落ちる冷凍ものを使っていることの説明の最後に、こんな文章があった。それを年末、ふと思い出した。期せずしていまは牡蠣のシーズン真っ只中である。
そんな折、夜に大阪で忘年会の予定が入った。逆に言えば日中は空いている。つまり、昼ごはんを食べに日生へ向かい、そのまま大阪へ戻って夜は忘年会、というあまりに完璧なプランを実行できる。「今年の冬」ではないものの、あの店の「冬の牡蠣」の誘いに乗るのは、今なのではないか?
広島から帰った2日後、昼ごはんのカキオコのためだけに、再び18きっぷを握りしめ西へ向かった。
京都→姫路
さすがに今回は早朝から動く必要がないので、出発はゆったり10時過ぎ。
まあ本を読みつつ、時折居眠りしながら電車に揺られて姫路に到着・・・と思ったら、その手前で動かなくなった。この姫路では5分乗り換え、そして播州赤穂では1時間に1本の赤穂線にわずか1分乗り換えの予定なのだが、全く動く気配がない。ていうか、2日前に続いてまた姫路で遅れを取っている。
最終的に「急遽ですが到着ホームが変わります」という放送までかかり、ようやく動き出した。どうも今から乗る播州赤穂行きの電車のパンタグラフにビニール袋が引っかかったらしく、点検をしていたらしい。結局姫路でドアが開いたのは7分遅れ、播州赤穂行きは一応待っていた。
しかし播州赤穂で1分乗り換えができないことが判明しているなら姫路で1時間潰すという選択肢を取るのだが、車掌に問い合わせても「接続を取るか未定」という、逆に言えば乗り換えられる可能性を含む返答しかない。行くしかないか・・・と思い乗ることにしたのだが、
なんとその播州赤穂行きは、どういうわけか通路まで立ち入れないほどの超満員だった。
姫路→播州赤穂
10分遅れの播州赤穂行き、相生まで席に座るどころか、通路にすら詰めれずにドアの前からほとんど動けず。その相生で、乗り換えを待っていた岡山方面の電車に乗る客が殺到してようやく少し空いた。というか、あの大混雑で岡山まで1時間か・・・と思うと、乗ってないのにちょっと憂鬱になる。
その相生の手前でこの先の乗り換えについて放送があった。まず相生で岡山方面には接続を取る、でもその先の上郡で鳥取行きの特急には乗り換えできないとの放送。そして肝心の、播州赤穂から先の乗り換えは・・・
播州赤穂→日生
待っていた。いや、岡山から先、備中高梁まで行く電車なのでその先を考えると10分遅れの時点でこりゃあ待たないだろうと諦めていたのだが、ギャンブルに賭けてみるもんである。
半ば奇跡的な接続待ちのおかげで、予定通り12時過ぎに日生に到着。やっと、念願の、「冬のカキオコ」を味わえる。日生駅を降りた時点でもうすでに「カキオコ」フィーバーは始まっていた。
まずはやはりあの一文を目にしたお店、「オレンジハウス」へ向かう。この店は前回来たとき、そこかしこコロナ禍でお好み焼き店が休業していた中で、ほぼ唯一見つけ出した営業中の店だった。混んでると思いきや奇跡的に1席空いていたのですぐに座れたのも運がいい。
せっかくなので追加料金を払い、牡蠣を増量してもらった。
そして、味は。
うまかった。いやそりゃ当たり前だという話なのだが、席についてから少し前の夏に来たときのカキオコの味を思い出して比較したら、もう比べ物にならないほどの味だった。夏場のカキオコがまずいわけではない。冬場のカキオコの、牡蠣の味の濃さにただただ驚くしかなかったのだ。
う~ん、冬のカキオコ、これはやばいものを知ってしまった気がするぞ。
店を出ればそこは瀬戸内海、向こうに見えるのは鹿久居島。天気もよくたいへん気持ちいい。
本来なら、カキオコを食べ終えたらさっさと日生から戻る予定でいた。ちょうど1時間に1本の赤穂線が15分後にやってくる。でもここから大阪までは3時間もかからないので、次に来る赤穂線でさっさと戻ったところで、たとえどこかで途中下車をしたとて確実に大阪で時間を持て余す。
であれば・・・?
これはもう連食するしかない。おかわりだ。そのまま日生駅の反対側にある「うまうま」という店に行く。ここはかなり並んでいたのだが、先に注文を聞かれるシステムのおかげで着席してからすぐにカキオコが出てきた。
はい、優勝です。
けっこう店は混み合っていて、隣では常連客と思しき老夫婦が牡蠣のバター焼きみたいなのを食べている。自分の手元に一味唐辛子があったのでそれを手渡したりしながら、はふはふとお好み焼きを食べる。いやあ、これ、うますぎる。というか、牡蠣ってこんな美味い食べ物だっけ?
気がついたら2枚目のカキオコもあっという間に消えていた。余談だが、その後の忘年会でカキオコを2枚も食べたという話をしたところ、「それはもう痛風一直線なのでは?」という耳の痛すぎる指摘を受けてしまったが、なんとか痛風にはならずに済んだ。
日生→播州赤穂
日生から来た道をそそくさと戻る。本当に昼ごはんにカキオコを食べるためだけの岡山県滞在だった。
15分ほどで播州赤穂駅に着く。もうすでに遅れはほぼなくなっていてすぐに姫路行きが出るのだが、これには乗らずにせっかくなので赤穂を散策することにした。
10年以上前、四国から戻る道中で遅れに巻き込まれたときに、この駅の改札で情報収集してたら後ろからイライラしたおっさんが駅員を詰り始めた。さすがに苛立ち「ちょっと静かにしてくれ」とおっさんに物申したら、察した駅員が改札外の窓口に誘導してくれて、そこで対応してもらったことがある。
播州赤穂駅の改札を出たのは確実にそれ以来のことなのだが、駅の外に出たのは初めてだ。
向かったのは赤穂城。途中、思いっきり道を間違えてあらぬ方向へ行ってしまったが、ようやくたどり着いて入場しようとしたら、なんと年末年始休業で思いっきり門が閉まっていた。
気を取り直して隣にある大石神社を覗けばここがものすごかった。赤穂といえばやはり赤穂浪士、この神社の参道には赤穂浪士の石像がズラッと並んでいる。もはや花道のように送り出されているような気分にすらなってくる。
しかし大石内蔵助を眺めていると、水曜どうでしょうの「香港大観光旅行」においてミスターを拉致しようとして結局自分がアメフト部員に担ぎ上げられて拉致される羽目になった大泉洋のコスチュームを思い出してしまうから、水曜どうでしょうの罪はやはり深い。
そして境内に入れば、『君が代』の歌詞に出てくるさざれ石があった。これも初めて見た気がする。
もう新年の準備が進められている中、せっかくなので参拝して駅へ戻った。赤穂といえば名産は塩、土産にほしいなあと観光案内所を覗けば様々な塩が売られていた。少し悩んで粗塩を買う。
播州赤穂→姫路
粗塩とともに一口塩羊羹も購入。程よい甘さとしょっぱさが良かった。
16時15分に姫路に到着。姫路から大阪まではちょうど1時間、17時前の新快速に乗れればいいので、まだ少し時間がある。そういえば広島からの帰り、うっすらライトアップされた夜の姫路城を遠巻きに眺めていたが、この時間だと白鷺城とも言われる城が夕日に照らされる様子が見れるのではないか。
姫路駅から一直線に城へ向かえば、やはり目論見通り、白鷺城がオレンジに染まっていた。
とはいえこの時点で時刻は16時半。駅から姫路城までは急ぎ足で15分ほどかかる。滞在時間5分で姫路城をあとにし、途中ATMでお金を下ろすというミッションをこなしながら大慌てで姫路駅へ。
ちなみに久しぶりに姫路駅の「えきそば」を食べたいなあと思っていたが、そんな余裕は時間的にもお腹的にもどこにもなかった。